株式会社企業再生支援機構は、戦後最大級の倒産をした日本航空(JAL)に続き、PHS(簡易型携帯電話)大手のウィルコムの再生に取り組むことになりそうだ。
奇しくも両社には、京セラ名誉会長の稲盛和夫氏が絡む。政治に翻弄されたあげく会社更生法を申請して倒産、「官民ファンド」の企業再生支援機構の監督下で再建を目指すことになったJALは、「再生請負人」の稲盛氏を最高経営責任者(SEO)として招請した。
一方、ウィルコムは京セラの次に第二電電のDDI(現KDDI)を手がけた稲盛氏が、三番目に取り組んだPHS事業のDDIポケットを前身としており、京セラが長男でKDDIを次男とするなら、ウィルコムは三男坊という位置付け。それだけに稲盛氏の思い入れも強い。同社は携帯電話との戦いに敗れ、昨年9月には事業再生ADRを申請、私的整理に踏み切ったのだが、稲盛氏は取締役最高顧問にとどまっている。
両社の再生が、同時に行なわれているところに、稲盛氏の「勝算」と「打算」がある。
どういうことか——。
稲盛氏が、稀有な実力を持つ経営者であることを知らない人はない。また、事業だけでなく、人類社会に貢献のあった人に贈る「京都賞」を創設するなど社会活動にも熱心で、さらに教育者としての側面もあって、若手経営者のための「盛和塾」では、これまでに約5000人の指導にあたってきた。
一方、政治的には大胆な政治改革論者で、政権交代を訴え続ける小沢一郎民主党幹事長とは旧知の仲。寄り合い所帯の民主党が窮地に立つ度に、黒子として現れ、「調整役」を果たしてきた。民主党にとっては、財界最大の支援者。京都を選挙地盤とする前原誠司国土交通相の後援会長も務めており、その前原氏がJAL問題で窮地に立った時、再建を頼める人は稲盛氏しかいなかった。
すでに、稲盛氏の「再生請負人」としての“腕”は、証明済みだ。98年に戦後最大級の倒産といわれたコピー機大手の三田工業を引き受け、2000億円の負債を返済、10年かかるといわれた更生計画を、わずか3年でやり遂げた。
ただ、JALは魔窟のような会社である。八つに分かれた組合問題の複雑さはよく知られており、機長、副操縦士、客室乗務員などは、どんなに会社が苦境に立とうと、関心があるのは自分たちの待遇だけで、彼らは、機長平均2500万円とバカ高い給与が証明するJALの居心地の良さを守ってきた。
今回、稲盛氏は「労使同軸」の融和路線で臨む。上から押さえこむのではなく、組合の信頼を得て、経営陣が社員と一丸となって再生を目指す。ただ、稲盛氏が自ら語っているように、航空業界は未知の分野。しかも、カネボウの伊藤淳二氏が「JAL改革」に失敗した例が示すように、「政官」の思惑が複雑に絡むJALに、「製造業的な改革の発想」は通じない。
「動機善なりや、私心なかりしか」「小善は大悪に似たり、大善は非情に似たり」といった数々の「稲盛語録」を持つ稲盛氏にしても、JAL再生は容易ではない。ただ、それを本人もわかっているし、京セラ名誉会長として週に数回の出勤にとどめ、半ば引退した身を、今回、奮い立たせた動機は何なのか。
それを解くカギが、事業再生ADRに逃げ込まなくてはならなかったウィルコムの惨状にある。この私的整理は、取引銀行団の合意が必要だが、交渉は難航していた。そこで企業再生支援機構に支援を要請、約430万の加入者を抱え公共性が高いことから同機構が支援に入り、銀行団は債務の元本維持、返済延期を呑み、債権を一部放棄する可能性が高い。また、スポンサー候補のソフトバンクやアドバンテッジパートナーズなどからの出資を受ける方向で調整しているが、こうした機構利用の再生に、JALのCEOとなった稲盛氏の“顔”が生きる。
KDDIにしてもそうである。同社は、3617億円を投じてCATV最大手のジュピターテレコム(JCOM)を傘下に納めることになった。KDDIとしては過去最大の出資で「攻めの経営」を印象付けるが、内実は厳しい。NTTに対抗するには自前回線で勝負するしかなく、これだけの巨額投資は、一種の賭けである。
こうして次男坊のKDDIが乾坤一擲の勝負に出て、三男坊のウィルコムが国の支援で甦ろうとしている時に、稲盛氏としてものんびりしているわけにはいかない。KDDIについては、11%の株式(約2500億円)を保有する京セラに次ぐ二番目の大株主のトヨタ自動車が、売却の意向を示しており、思いとどまらせるべく稲盛氏は奔走、引退どころではない。
そのためには国に恩を売り、自らの存在感を、再び、内外に知らしめる必要がある。どうやら、それが77歳の“老骨”に鞭打ってJALのCEOという「火中の栗」を拾った理由のようなのだ。

