田中宇(たなか・さかい)氏は、おそらく日本で最も高名なブロガーの一人である。田中氏のウェブ・サイト「田中宇の国際ニュース解説」は、メール配信を受けている読者が18万人、ページビューは月に150万にも達する。
東北大学経済学部を卒業して共同通信を経てマイクロソフトに入社。日本初の本格コラムサイトの『MSNジャーナル』を立ち上げ、ネットジャーナリズムの先駆けとなり、独立後に自らのウェブ・サイトを運営するようになった。
著者紹介に「PC一台を駆使して世界の情報をダイレクトに読む」と、あるように、自らが世界を駆けまわって取材、要人インタビューなどをこなすわけではない。欧米の通信社を中心に世界のニュースを読み込んで、独自の解釈を加えて情報発信する。
現場感のなさに不満を感じる向きもあるが、それをはねのけて、余りある面白さと確実な情報分析がある。それが可能なのは、田中氏に「ぶれない軸」があるからだ。
その「軸」が、『日本が「対米従属」を脱する日』(風雲舎)として上梓された。田中氏が一貫して主張してきたのは、世界が多極化、その中で日本は生き残る道を探るべきだということ。今、まさに鳩山政権がその道を辿ろうとしているだけに、タイムリーな出版となった。
田中氏は、多極化をオバマ政権も容認しているという。
「米国は、国連を最重視する姿勢を打ち出した。(中略)オバマは国連が「世界政府」になっていく過程を容認しているともいえる。米英中心の世界体制が崩れ、多極型の世界体制へと移行する動きを、ここでも米国自身が誘導ないし扇動している」
そして田中氏は、民主党政権の「脱官僚」が、日本を冷戦思考や対米従属中毒から引き離す、と読む。小泉政権は対米従属強化、安倍政権はそれを踏襲、福田政権、麻生政権へと受け継がれるが、「米国は一貫して、表向きだけ日本重視といいつつ、実態は日本無視だった」という。
鳩山政権はそこから脱しようとしている。
「鳩山が選挙前に発表した論文『私の政治哲学』で、米国の市場原理主義が失敗したと明言したことは、民主党がネオコン戦略と決別し、米国の衰退と世界の多極化に対応して、小沢の正三角形外交戦略に一本化したことを示している。(中略)東アジア共同体(アジア通貨統合)や日米関係の対等化など、鳩山が論文で書いた外交戦略は、小沢の戦略と一致しており、戦略的には両者の間に矛盾が感じられない」
田中氏によれば、対米従属や冷戦体制の永続化を望むのは官僚機構であり、米国は既に、2000年の「アーミテイジ・ナイ報告書」で「日本は米国に従属するのではなく、対等な同盟関係に近づくべきだ」と、述べていたという。しかし、官僚機構を中心とした英米中心主義者たちは、権益を失うことを恐れ、マスコミを巻き込んで「反民主」で結束するのである。
「日本を英米中心主義から多極主義の側に転換しようとする民主党は、失政やスキャンダルなどを誇大報道されて、短命に終わりかねない」
この部分は、まさに弊誌が別項で「検察とマスコミの愚」として指摘した通りであり、そうした官僚機構とマスコミが発する反民主、反小沢、反鳩山の情報に踊らされることなく、多極化の中で生き抜く術を模索する際、必読となる書籍といえよう。

