防衛商社の山田洋行から過剰接待を受けていた守屋武昌前防衛事務次官の「証人喚問」は、「接待」は認め「便宜供与」は否定するという作戦を事前に定めていたせいか、証言拒否でいたずらに時間を費やすこともなく、むしろ守屋氏は自分から知られざる接待供応を口にしてポイントを稼いだ。
もちろん、その“潔さ”が、「吉」と出るか「凶」と出るかはわからない。
東京地検特捜部は、現在、宮崎元伸・山田洋行元専務の背任横領容疑の捜査を進めている。捜査協力しているのは山田洋行の現経営陣。米GEのエンジン代理店の商権を奪った宮崎元専務は、オーナーの山田正志氏にとっては許すことのできない“裏切り者”であり、宮崎氏に関する情報と資料は検察にすべて提供している。それだけに検察の立件は難しいことではない。
だが、未上場企業の内紛に関与、片方の罪を提供された情報と資料だけで立件したのでは、「最強の捜査機関」の名が泣く。特捜部は「防衛省のドン」とまで呼ばれた大物次官の守屋氏を逮捕することで、「防衛商戦の闇」を明るみに出し、「癒着を生む」として批判の多い商社介入の「代理店方式」にメスを入れる方針である。
つまり「守屋逮捕」は、既定の路線であり、いくら守屋氏が「便宜供与」を否定したところで、山田洋行の協力を得ている以上、表面化していない贈賄工作の証拠を握っていると捉える方が自然。捜査着手した段階で、突破口は開けていたはずなのだ。だから検察は宮崎氏の背任横領を固めようと、いち早く米司法当局に捜査共助を要請、既に米国に検事を派遣している。宮崎氏をまず逮捕、徹底的に叩いて山田洋行資料をもとに、贈賄工作を引き出す作戦だ。
これに対して守屋氏は、倫理規程違反の過剰接待を厳しく追及されることは仕方ないとして、「甘かった。不徳の致すところです」と、反省したうえで、「ゴルフバックを2回、もらった」「カラオケに行ったこともある」「北海道、九州、四国などのゴルフ旅行に夫婦で行った。費用は宮崎さんが負担した」と、接待漬けを認めたのだった。
本人は、便宜供与したわけではないので、収賄に問われることはないと踏んでいるのだろうが、特捜部はこれでますます「守屋逮捕」に傾いた。贈収賄罪が成立するかどうかは、法テクニックの問題である。請託の有無等、判断が微妙なものは少なくない。
だが、特捜部はその困難を、特権である公訴権を利用して乗り越えてきた。「権力の乱用」として批判されることもあるが、「許しておいていいのか」というマスコミの声を支えに、これまで強引な捜査を展開してきた。そこにあるのは、「国民の期待の応える」という、検察の理由付けであり、守屋氏の身も蓋もない接待の是認によって、検察は守屋氏を放置できなくなったといえよう。
それにしても異常なのは、今回の事件がマスコミ主導で展開していることだ。
宮崎氏の背任横領疑惑が検察に情報提供されることは当然ながら、それがマスコミに逐一伝わるのはなぜなのか。なぜゴルフ接待が偽名で行なわれ、5年間で百数十回という接待の詳細が報道されるのか。
「山田洋行には大手新聞社出身の社外広報役がいて、マスコミの広報担当を担い、断続的に記事を書かせているのです。だから詳細な接待が明らかになっている」(事件を追う全国紙記者)
宮崎氏サイドも負けてはいない。宮崎氏自身が説明役を務めて反論する一方、久間章生元防衛大臣など政治家を絡めながら、山田洋行攻撃を行なっている。
「マスコミに情報ルートを持つ大物仕事師が、宮崎氏サイドについて久間攻撃を行なっています。その仕事師と親しい記者が、『久間の沖縄利権』といった記事を書いて目をくらましたり、『山田洋行がマスコミをゴルフに接待して守屋攻撃の資料を渡した』といった情報を流しています」(前出の記者)
双方の“陣営”に「マスコミ事情通」がつき、情報戦を展開、そのために事件構造が検察の着手前から判明している。
しかも、山田洋行には高検検事長を経験したヤメ検がつき、その背後に検事総長経験の大物弁護士が控え、宮崎氏にも特捜案件によく登場するヤリ手の弁護士がアドバイスをしている。
着手前から流れる情報と蠢く先輩弁護士たち——特捜部にとっては、非常にやりにくい事件となっている。
それでも特捜部は、振り上げた拳を簡単には降ろせない。守屋氏の次は、当然のことながら政治家を狙う。検察からの“抗議”を受けて、情報戦はしばらく下火に向かいそうだが、“情報屋”たちの口を封ずることなどできず、宮崎逮捕以降、「劇場型捜査」がこれからも続くことになりそうだ。

