参院選大敗を受けて、「安倍降ろし」が自民党内で活発になる中、日本経団連を始めとする財界主流は、「安倍続投」をいち早く支持した。
民意とも永田町とも違う結論を財界が出したのは、「安倍の使い勝手の良さ」だと、経団連関係者は語る。
「御手洗経団連の目標は、安価な労働力を確保するための規制緩和です。労働者の権利は擁護され過ぎていて、国際競争力の強化には悪影響を及ぼしています。もともと規制緩和論者の安倍首相は御しやすいが、弱体化でさらに扱いやすくなった。これが強面で『生活者保護』を訴える小沢さんならそうはいかない。だから安倍さんには、バッシングに負けずに頑張ってほしい」
弊誌はNo.580で、『朝日新聞』と「偽装請負」をめぐって戦う御手洗冨士夫・日本経団連会長の「狭量」について書いた。
『朝日新聞』が調査報道した「偽装請負」に、御手洗会長が不快感を持ち、広告出稿の一部を制限するのは、狭量に過ぎると指摘したのだが、一方で「終身雇用」と「家族主義」を打ち出している御手洗氏ゆえ、朝日報道にも反発せざるを得ない行き過ぎがあるのではないかと思っていた。
しかし、「安倍大敗」を利用しようとする経団連の狡知と、経団連が発表した2007年度の「規制改革要望」の手前勝手な申し入れは、御手洗会長の「狭量」に見事に重なりあう。そして、御手洗経団連が「偽装請負」の固定化を本気で狙い、それによる格差の進行、二極化の拡大に、なんの痛痒も感じていない姿に慄然とする。
今年の「要望」で、最大の目玉は派遣労働だった。全体で205項目を要望、そのうち「雇用・労働」に関するものが、昨年の23から34項目に増えて最も多い。
中でも経団連が力を入れているのは、「派遣労働者への雇用契約申込義務の廃止」と、派遣と請負により行なわれる事業の区分に関する基準の見直し」の二つだ。
派遣労働者も、3年以上継続して働けば、受け入れている派遣先にとっては貴重な戦力となっており、正社員との格差是正のためにも、現行は「社員としての雇用」を義務づけているのだが、経団連はそれを「廃止せよ」という。また実際には「派遣」なのに「請負」として安く使うのが「偽装請負」だが、経団連はその基準を見直し、「偽装請負」を合法化せよというのである。
ここまで露骨な格差推進を、臆面もなくやる姿勢に驚かされる。「家族主義」も「終身雇用」も、限られた一握りの「社員」というエリートだけが享受できるものらしい。それがキヤノンという「町工場」を経営しているレベルなら差し支えない。
しかし、現実にはキヤノンは日本を代表する企業であり、御手洗氏は日本経済全体に目配りしたうえで、日本人の幸福感にも気配りしなければならない立場だ。
人間はバランスシートで処理できるものではない。使い捨ての労働力という観点でしか人を見ない会社には、「安価な労働力」しかやってこないし、人を人として遇する企業には、忠誠心も含めて労働力以上の付加価値が提供され、それが企業の総合力を上げる。
派遣と請負を一体化、請負に固定してコストカットを図ろうという「心なき企業」は、社内と地域社会に差別をもたらし、人心は荒廃、治安は乱れ、学力は低下、住み難い社会となる。そんな社会は誰も望んでいないし、企業に求められる経済合理性とは別問題だろう。合理性を追求、経営を効率化、企業を成長軌道に乗せるのは経営者の役割だが、だからといって人でなしの職場環境にしてはなるまい。
本来、労働者を「請負人夫」としてしか見ない発想は、ピン撥ねを「業」とする手配師のものだった。今は、経団連会長が悪びれずにそれを推進する。その貧困な発想と、政治家を操作する対象としてしか見ない功利主義で、日本をどうかじ取りするのか。
御手洗経団連会長には、何の期待も持てず、ただ嘆息するしかない。

