●総連事件「検察捜査」がもたらした「国家的損失」
NO.582   2007.8.15
 歴史に「if」を持ち込んでも意味がない、という。だが、弊誌は「朝鮮総連売却事件を東京地検特捜部ではなく、警視庁公安部が捜査していれば」との思いを抑えることができない。
 総連中央本部の売却という現象には、多様な「論点」が含まれており、大仰に表現すれば、「日本戦後史の暗部」の総決算にも等しい意味も帯びる。
 一つには、北朝鮮の大使館的機能を有しながら、様々な違法活動の拠点とされてきた朝鮮総連の実態を表面化させる可能性があったこと。特に日本の有力政党や政治家に対するロビー活動の実態を浮かび上がらせることが可能であった。さらには、検事長まで務めた幹部検察官OBをめぐる、いわゆる「検事の人脈」の問題もある。
 しかし、政権からの風圧に過剰反応した法務検察が、特捜部を起用することによって、多様な「論点」は切り捨てられた。「OBの個人犯罪」に矮小化されてしまったのである。総連ウオッチャーが指摘する。
「検察のスタンスは『最初に緒方(重威・元公安調査庁長官)ありき』。これが警視庁公安部ないしは警視庁警備局であれば、『総連ありき』だっただろう。検察、警察のいずれかが捜査主体となるが、事件で解明されるものは、全く別物になったはずだ」
 総連売却の理由となった整理回収機構(RCC)からの債務返済圧力は、朝銀信組の乱脈融資が原因である。在日朝鮮人の仮名、借名口座を経由した架空融資は総連に流れ、北朝鮮本国への送金と、日本政界工作資金に化けた。旧社会党や自民党一部勢力に潤沢な資金が「親総連工作」のために流れたことは、公安当局にとっては周知の事実。「公安部が捜査に入れば、必ず政界工作の解明を図ろうとしたはず」(ジャーナリスト)である。
 総連の政界工作は結果として、故金丸信・元自民党副総裁や田辺誠・元社会党委員長らの「土下座外交」や「河野談話」へとつながり、戦後東アジア情勢の基軸を形成した。その後の野中広務・元自民党幹事長のスタンスなど、つい最近までの動静に影響を与えてきた。「身内の不祥事始末」に走った検察が、総連を被害者とする詐欺という構図で事件を処理したことで、最大かつ最後であったであろう「総連ロビー」の解明の機会は、永遠に失われてしまったのである。
 これを「国家的損失」と言わず、何と言うべきか。
 捜査機関が客観的に機能していない現在、事件を俯瞰して国民に提示すべきはマスコミのはずである。しかし、マスコミはいずれも検察の標的とされた緒方元長官の“詐欺的行為”を書き連ねることに汲々としており、「国家的損失」への思いを馳せる余裕がない。『産経新聞』が「『詐欺』の実相」なる皮肉なタイトルを付し、「残る違和感/立件は表層のみ」と、検察構図に疑問を呈した記事が、わずかに納得できる指摘であった。
 検察官一人ひとりが「独立した官庁」という特殊世界に生きた緒方元長官は、自己の「正義」を他機関の検証に委ねることなく貫き、逮捕された。検察組織は「国家的利益」を俯瞰することなく、手前味噌な事件構図を作り上げた。両者に共通するのは、検察特有の「独善性」。終始、検察の独善性が、この問題を形成したといえよう。「詐欺師・緒方」の構図のまま事件は起訴され、捜査は終結し、これらの問題点は一切封印された。
 検察をチェックすべき機関がない弊害は、長く指摘されているが、今回ほど激烈な“副作用”をもたらしたケースは思いつかない。あらゆる国家機関と報道関係者、そして国民が、「総連事件を検察が捜査したことで、『失われたもの』の重さ」を痛感せざるを得ない局面が到来するであろうことを、弊誌は予告しておく。





NO.582   2007.8.15

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