20世紀末は、日本の金融システムが世紀末に相応しい動揺を見せた時だった。
「不倒神話」を誇っていた都銀、長信銀が潰れ、4大証券の一角が崩れ、バブル期に世界最大のディーリングルームを建設した中堅証券が経営破綻した。
金融業界を指導する旧大蔵省は、銀行検査官や中堅官僚らが酒食の接待を受け、「ノーパンしゃぶしゃぶ」で遊んでいたとして逮捕され、権威は地に落ちた。律令時代からの「大蔵」の名は取り上げられて、欧米並みの「財務省」という素っ気無い名称となり、検査業務は金融監督庁(現金融庁)に移った。
そうした事態に誰しも不安を持つ。金融という「経済の血液」の循環を良くするために、「護送船団方式」というシステムが取られ、金融機関の安全を政府が保証していたのに、いきなり「金融機関にも倒産はあり得る」という現実が突き付けられた。「どうすりゃいい?」と、国民がうろたえるのは当然である。そして、したたかにもそこに目をつけたのが「ハルマゲドンファンド」だった。
1999年頃から2003年頃にかけて、書店には海外への資産逃避を勧める書籍が山と積まれ、一流ホテルなどでは「資産家セミナー」が大流行した。セールストークは様々だったが、最後は「私に任せなさい」がキメのセリフとなる。
警視庁など捜査当局や国税当局は、「出資法違反、詐欺、脱税、外為法違反などいろんな犯罪の温床となっている」と、こうした「ハルマゲドンファンド」に関心を寄せていた。だが、犯罪となった例はほとんどない。「実害」が出なかったからである。
ファンド関係者が解説する。
「全くの詐欺ファンドならともかく、『すべて私に預けなさい』と、根こそぎ資産を吐き出させて、自分で勝手に運用するようなことは、どこもしていません。外貨預金や海外への投資を勧め、残りの2割程度を『私のファンドに投資しませんか』と、勧誘する。ハイリスク・ハイリターンは、投資家も承知の上ですから、失敗してもあまりきつくは責めない。それに資金が回転しているうちは、投資家に損害を与えることはありません。実害がないからファンドが訴えられることがなかった」
しかし、一昨年あたりから環境は一変した。
株価は回復、地価も都心から上昇に転じ、企業業績は回復、誰しも日本経済の先行きに自信を持ち始めた。「危機本」や「危機セミナー」は、金融システムが揺らぎ、借金漬け体質の政府が両手を挙げてギブアップ、国債が暴落し、ハイパーインフレが到来するというシナリオが成り立つ時に流行るのであり、経済が回復すれば杞憂となる。
困るのは、「ハルマゲドンファンド」の主たちである。資産総額が100億円を超えるファンドの中には、新しい投資家が現れないことから資金繰りに窮し、ファンドの解約には応じず、他への「乗り換え」を強引に勧めて、急場をしのいでいるところが少なくない。そんな状態が長く続くはずもなく、「年内には幾つかのファンドが破綻する」(ファンド関係者)と、予測する人は多い。
そうなると、捜査・国税当局の出番となるのだが、現実に注目を集めているファンドマネージャーがいる。大証2部に上場する「千年の杜」で、今年3月まで社長を務めていた高橋誠氏である。
アルマという会員制投資クラブと、TFGインベストメント・アドバイザリーという会社を経営、顧客がスイスプライベートバンクに預金する際、その手伝いをしたり、顧客から預かった資産でファンドを立ち上げて、世界各国の資源事業などに投資している。
それだけなら「資金が回転しているうちは問題ない」という世界の話だが、問題は絶頂期の02年末、増資の引き受けで上場企業のオーナーになったことである。捜査当局には、「この間の資金調達や株価の動きを洗う。何か出てくれば、ここを突破口に、こうしたファンドビジネスにメスを入れたい」(捜査関係者)という思惑がある。
実刑判決の村上ファンドやTOBに敗れたスティールパートナーズもそうだが、ファンドが冬の時代を迎える中、資産家の不安を煽って儲けた連中にも鉄槌が下ることになりそうだ。

