「党を割るなら前原だろう」と予測される民主党の動向の中で、反小沢一郎代表の急先鋒である前原誠司前代表を、自民党、それも安倍晋三首相の側に結び付けていくのではないかと目される人物が浮かび上がってきた。人材派遣大手「パソナ」の南部靖之社長である。
55歳の南部氏は、関西大工学部在学中の1976年に、前身となる人材派遣会社「テンポラリーセンター」を設立、業界大手に育て上げた独自の経営理論を持つ人物。政官界との人脈も豊富で、この2月には元総務相で慶応大学教授の竹中平蔵氏をパソナの特別顧問に採用して、周囲を驚かせた。
その南部氏は、意外なほどに前原氏と“距離”が近い。
「前原氏の妻、愛里夫人は、かつてパソナに勤務し、しかも南部氏の秘書を務めています。さらに愛里夫人は、創価短大出身で、創価学会とのパイプがパソナ、前原氏の双方に生まれた格好になっていました」(関係者)
一方で、南部氏の政官界人脈、特に安倍首相とのつながりを如実に物語ったのが、3月に明らかになった総務相「人材バンク」の仲介業務受注の事実である。関係者が明かす。
「国家公務員の再就職先を紹介する総務省の機関である人材バンクは、再就職の斡旋ノウハウが乏しく、設置してからの7年間で1件しか仲介実績がない。省庁の斡旋を全廃して天下り批判をかわそうとする官邸主導の『新人材バンク』構想を実現するには、人材バンクの機構を拡充するしかない。そこで、再就職先探しの仲介業務を民間委託することが検討され、企画競争の結果、パソナが選定された。パソナの国との契約は今のところ無償ですが、紹介先企業から紹介料を得ます。官邸が目論むように省庁による再就職斡旋の全廃が実現すれば、パソナにとっては大規模な事業となるわけです」
省庁による再就職斡旋全廃に対する党や霞が関の猛反発を、安倍首相は「政治決断」で押さえ付け、新人材バンクの設立を決定した。パソナには大きな「利権」が生まれる可能性が開けたことになる。
実務にあたる渡辺喜美行革担当相は、「新人材バンクの業務を民間に委託することはない」と言及しているが、当の南部氏は、「我々には公務員の才能を細かく分析するプログラムを作る能力がある」と周囲に語っており、新人材バンク業務の一部は、確実にパソナに委託されるとの見方が常識的だ。
「戦後生れの首相で日本は変わる」。こう公言して憚らなかった南部氏は、まさに自身が“絶賛”してやまなかった安倍首相時代に、霞が関に対して絶大な影響力を行使できる立場につく。
「政」と「官」のツボを押さえた新進の経営者はまた、政界再編論者でもある。そこで、民主・前原氏との「個人的な近さ」が「政界再編の導火線になるのではないか」(政治部記者)との推測を呼んでいるわけである。安全保障に対する考え方が小沢氏と全く異なり、「むしろ安倍首相に近い」といわれる前原氏。個人的にも安倍、前原両氏は親しいといわれる。その双方と太いパイプを持つパソナの南部氏が、霞が関を押さえようとするほどの力を持つ今、自民、民主双方で行き詰まりをみせる安倍、前原の両氏の今後の動きを、手助けする存在になっていくのではないかとの観測が、急速に強まっている。

