「強く見えるのは、そう見せているだけ。実は気の小さい人なんですよ。秘書から、『ここしばらく元気がない』と聞いていたので、『大丈夫かな』と、心配していたんです」
こう語るのは、自殺した松岡利勝農水相を初当選の頃から応援していたという、地元・熊本の建設業者である。
ふてぶてしい顔と歯に衣着せぬ発言で、「傲岸不遜」の印象を持たれがちな松岡農水相だが、人の気持ちがよく読め、その分、傷つきやすいデリケートな人柄なのだという。
当選6回で念願の農水相ポストを手に入れたのに、安倍政権発足以来、「政治とカネ」の問題を引きずる旧来型政治家のレッテルを張られ、摘発されたマルチ業者からの献金問題や事務所費問題を抱え、さらに緑資源機構の官製談合メンバーとの密接な関係を指摘されるなどスキャンダルは続出で、相当に追い詰められていたことは疑いない。
それに加えて、猛々しさの裏に弱さを隠し持っていたというのだから、突っ張り続けた神経が、プッツリと切れてしまったのだろう。いずれにしても、中川一郎、新井将敬など自殺した政治家の「死の理由」が、最終的には「謎」でしかないように、松岡農水相の「死」も解明されることはなかろう。
確実なのは、松岡農水相が迫りくる検察捜査に脅えていたことである。
緑資源機構の官製談合を捜査する東京地検特捜部が、その先に自分を描いていることは、過去に鈴木宗男代議士とともに「国策捜査」の対象とされたという経験から理解していたはずだ。
ただ、「林道談合事件」の摘発が、入札価格が数百万円単位の測量・設計・コンサルタント業務で始まっただけに、最初の段階では「事件は遠い」と思っていた。政治家が「口利き」するレベルの談合ではない。事実、「俺は関係ない」と、松岡農水相は周囲に語っていた。
測量・設計・コンサルの各法人(公益法人や民間企業)は、林野庁出身の松岡農水相の有力スポンサーではあるが、6年前に献金実態を『朝日新聞』に暴露され、「現役とOBとOB政治家」のトライアングルが、税金を食い物にしていると批判されて以降、松岡農水相はそうした法人との関係を、献金を含めて表向き、切っていた。
ところが、特捜部は新たに「特定中山間保全整備事業」に切り込んできた。全国でも、この事業に着手しているのは熊本県と島根県のみ。しかも、島根県が2007年度からスタートしたばかりなのに、熊本県は03年に事業着手、これまでに何十工区もの林道工事が発注されている。
事業が実施されているのは、阿蘇山の北側に位置する小国町と南小国町。工事を受注した業者と松岡農水相との関係は、松岡農水相が代表を務める「自民党熊本県第三選挙区支部」と、農水相の政治資金管理団体である「松岡利勝新世紀政経懇話会」の政治資金収支報告書に明らかで、04年と05年、以下のような業者が献金していた。
◎杉本建設(阿蘇市)344万円、◎森工業(阿蘇市)172万円、◎熊阿建設(阿蘇市)100万円、◎佐藤企業(熊本市)90万円——。
杉本建設は、松岡農水相の初当選(90年)以来の有力後援者で、阿蘇市を拠点としていることから、「特定中山間保全事業」の業者サイドの仕切り役と見なされていた。
特捜部が緑資源機構の「林道測量談合」の次のターゲットを「熊本・阿蘇」に定めたことが明らかになった時点で、松岡農水相は検察の「強い意志」を改めて感じたに違いない。
5月25日、特捜部が小国町の「緑資源機構阿蘇小国郷建設事務所」などを家宅捜索して以来、「先生は、急速に元気をなくしていった」(地元支援者)というのである。
加えて松岡農水相にとってショックだったのは、大臣就任後も人気が高まらないどころか、「反松岡派」の力が強くなっていったことである。今年の統一地方選挙で、松岡農水相が推した阿蘇市長候補が落選、「国家老」といわれた元秘書の栗原秀樹氏が県議選で敗れたことに、それは象徴されている。
反松岡派の熊本県政界関係者が語る。
「死んだ人にムチを打つつもりはない。ただ、公共工事における松岡さん横槍は、あまりに無茶が多過ぎた。過度の『要求』も含めて、地元業者の我々が、辟易としていたのは事実で、大臣になっても人気はなかった。今回の首長選や県議・市議選で、松岡さんに応援を要請した候補者は皆無に近い。意外に繊細な人だから傷ついていたと思う」
念願の大臣ポストを射止めた瞬間から始まった「松岡バッシング」と、地元のためになると信じた「利益誘導型政治」の不人気——その積み重ねが、松岡農水相を徐々に追い詰めていったことは間違いあるまい。

