Web時代を象徴するような、蜘蛛の巣状に張り巡らされた企業相関図が、幾種類も出回るようになって久しい。会員制経済月刊誌の『FACTA』は、それを「資本のハイエナ相関図」と名付けた。
その「相関図」の中心となる部分に、ようやく東京国税局のメスが入った。
「昨年末、東京・日本橋のビルを拠点に、上場企業の資金調達を手助けするMという証券ブローカーの関係先に査察が入った。狙いは日本ファーネス工業(現NFKホールディングス)、井上工業、クオンツなどの調達を通じ、巨額の利益をあげたMの脱税の摘発だが、その先にはこの種の錬金術のルーツといわれる西田(晴夫)グループがいるだけに、東京地検特捜部が手がける証券事件となる可能性が高い」(国税庁関係者)
その具体的なスケジュールは不明ながら、摘発すべき構図であることは疑いない。
Mのような「ハイエナ」と呼ばれる市場関係者が行なうのは、「死に体」となった企業に第三者割当を軸にした増資を提案、経営陣がそれに飛びつくと、証券市場に対して架空の事業計画のような“材料”を提供、ディトレーダーなどのセミプロが買い上がったところで売り抜けるというマネーゲームだった。まさに腐肉を漁る狡猾な「ハイエナ」である。
逮捕、起訴、公判を通じて、検察が証券市場のマネーゲーム化に警鐘を鳴らしたライブドア事件も村上ファンド事件も、「資本のハイエナ」に比べれば可愛いし、堀江貴文被告にも村上世彰被告にも、自分の金銭の欲望を満足させるだけでなく、日本の資本主義や証券市場になんらかのインパクトを与えたいという“野心”があった。
それに比べて、「ハイエナ」たちのなんと薄汚いことか。狙いはカネだけ。違法は犯さないが、逆に法に触れなければ何をしてもいいという精神で、開示情報は徹底的にごまかし、住所氏名はファンドの中に隠す。国家はもちろん市場や企業に対する思い入れも責任感も皆無だから、「腐肉」となった企業を食い尽くすと次の獲物へと移る。
上場基準を緩め、東京と大阪だけでなく、名古屋、札幌、福岡などの証券取引所も新興市場を開設、ろくでもない企業が上場して行き、取引所は退場させないから新旧取り混ぜたボロ会社が市場のスミにいくらでも転がっている。その企業とハイエナをチャートで結んだのが「相関図」である。
証券ビックバンによる規制緩和で彼らは登場、そのルーツの一人が前出の西田氏だった。バブル時代からの数少ない「仕手」の生き残り。バブル崩壊後、しばらくは鳴りを潜めていたが、東海観光、サハダイヤモンドといった銘柄で復活、以降、この錬金術に関わってきた。
捜査当局はこれまで、「ハイエナ」に対して手つかずだったわけではない。メディアリンクス、丸石自転車、大盛工業、ソキアなどを折に触れて摘発してきたし、最近もアドテックスやビーマップに群がっていた元暴力団幹部といった連中を、警視庁と大阪府警が一網打尽にした。
こうした上場ボロ会社を使った錬金術が、捜査当局に狙われやすく逮捕のリスクが高いことを、ハイエナたちに周知徹底させたという意味で、それなりに効果はあげているものの、根絶に程遠いのは、元祖である西田氏とそのグループが摘発を逃れているからだ。
捜査関係者が嘆息する。
「西田は本当に用心深い。ホテル住まいなどで住所不定を貫き、証券口座を持たず、売買は配下や顧客にやらせて、自分はアレンジするだけ。身分もなければ証拠もなく、罪に問うことができない」
そのうえ西田氏は、最近、税金が安くて狙われる恐れもないシンガポールを拠点にしているという。それが可能なのは、国税の査察を受けたMや自分の配下であるHを使い、錬金術に関与しているからだ。
今回も、査察の対象となったのはMではあるが、国税の狙いが「Mとその周辺」にあることは明白で、西田グループは今度こそ存亡の危機を迎えている。
グループの関係者だけではない。西田氏の背後には大手衣料メーカーのオーナー、関西の山林王など有数の資産家が控え、「女相場師」としてロンドンマーケットでも名を馳せるSなども絡む。摘発が始まれば、興味深い「Webの人間模様」が、かなり解明されることになりそうだ。

