『週刊新潮』と『週刊現代』が、がっぷり四つになってケンカ、そこに他の週刊誌が野次馬的に加わって大騒ぎとなった吉本興業問題は、書き尽くされたのか、5月に入るとようやく沈静化の兆しが見え始めた。
それを待っていたかのように吉本興業は、「株主並びにファンの皆様へ」というニュースリリースをホームページに掲載した。
まず「多大な心配をおかけした」と詫びたうえで、「報道は事実無根」と断言、次のように徹底解明を誓っている。
「(指摘されるような不正や不明朗なつきあいがあるのなら)事案に応じては、公平な第三者に委託して、真実を解明し、場合に応じ、刑事事件については司直の手に委ね、民事については損害賠償請求など法的な措置を講じ、ファンの皆様の期待に沿うとともに、株主利益の保護に努める所存です」
契約書よりは人と人との賃借信頼関係を重んじるという前近代的な馴れ合い経営が、今回の騒動につながったことは疑いない。ケンカの主体は創業家当主の林マサ夫人と、特別顧問職に就いていた中田カウス氏。双方、暴力団勢力との関係を持ち出していたが、そうした危ういつきあいは、馴れ合いの中から生まれる。
「刑事は司直」「民事は損害賠償請求」という言葉は、興行という特殊性を持つ世界で生息してきたがゆえに暴力団とも馴れ合った体質を、脱却するという宣言のようにも思える。それが直ぐに可能かどうかは別にして——。
ただ、この宣言は、吉本興業が1949年に大阪証券取引所に上場、1961年には東京証券取引所にも上場し、世に認知された証の東証一部上場企業となっていることを考えれば、いかにも遅い。国民的知名度は抜群で、資本金48億円、売上高が430億円に達する企業が、騒動を機にようやくコンプライアンスに目覚めた印象なのだ。
NHK大阪放送局が制作、放送している「バラエティー生活笑百科」で、準レギュラーの中田氏が出演していたゴールデンウィーク出演分を、NHKの自己判断で延期するなど、騒動が完全に鎮静化したわけではないが、終息へ向かっていることは間違いない。
だが、今回の問題を一過性で終わらせてはなるまい。『週刊新潮』が林マサ夫人、『週刊現代』が中田カウス氏を擁護したのは、“ネタ元”を大事にしようという判断だけで、「バックに暴力団」という環境は同じである。
もちろんマサ夫人の場合は、本人ではなく夫の故・裕章氏と暴力団との付き合いになるのだが、同氏は「西」のみならず、「東」でもそれなりの付き合いがあったという。
吉本興業は、1958年には人気絶頂のプロレスを関西で興行したこともある。その創業家が、神戸芸能社を設立、芸能界に隠然たる力を持った山口組三代目を始めとする興行界の実力者と無縁でいられるわけがない。
そういう意味で、上場企業が持つべき透明化を、暴力団との関係においてこれまで果たさなかった吉本興業が、しがらみを本当に断ち切れるかどうかの瀬戸際にきている。
同時に、吉本興業問題はテレビ局の問題にもつながる。溝口敦氏が指摘した「細木数子と暴力団」との関係を、マスコミ関係者は誰でも知っているのに、視聴率稼ぎのために見て見ぬふりをしている。
暴力団との関係を指摘される芸能人は中田氏だけではないが、テレビ局がそこにチェックを入れたという話は聞かない。そこには、テレビ局と芸能プロダクションと暴力団が同じサークルの中にいるという現実があり、だから判断を停止、週刊誌があれだけ騒いでもまったく報じない。
それは、「吉本抜きには番組を編成できない」という、吉本芸人に依存した番組を作っているテレビ局の情けない現実でもあるが、同時にテレビ局には、それを報道番組ですら取り上げないというジャーナリズムにあるまじき怯懦がある。そうした本質的問題がある以上、吉本興業問題を、一過性の内紛にしてはならないのである。

