楽天の三木谷浩史社長が暴走を始めた。
楽天は、4月19日、持ち分法の適用会社にする狙いで、「TBSを20%超まで買い増す」と発表した。1年半の休戦に終止符を打った格好だが、この間、TBSは安定株主工作を進め、その割合は発行済み株式数の6割に達したといわれているうえ、幾つかの買収防衛策も用意している。
1000億円を超える投資を行い、20%の寸前で停滞を余儀なくされた三木谷氏が、資本の論理で事態を打開しようと考えるのは悪いことではないものの、こうした敵対的行為がいい結果につながらないのは、フジテレビに攻撃を仕かけたライブドアの“末路”を考えれば明らかだ。
これはなにも「市場の論理」に委ねることが嫌いな日本の特殊性ではない。非情で強欲な資本主義を容認する欧米ですら、強姦のような敵対的買収は成功せず、形は敵対的であってもなんとか友好的な買収に持っていこうと努力する。
三木谷氏にそのつもりはあるのか。
TBSの井上弘社長は、4月25日の定例記者会見で、楽天との交渉の詳細な内情や三木谷氏の「堀江(貴文・ライブドア前社長)さんと同じように、仕事よりも株に興味を持っている人」という印象を明かし、三木谷氏との交渉が決裂した際、「ビジネストークの時としては、ちょっと異常なほど表情に表れて、ご機嫌が悪い状態でお帰りになられた」と、その子供っぽい人間性まで暴露した。
三木谷氏の「資本の論理」に対して、ビジネス観の違いや人間性への不信で反抗するのは、自由な売買が前提の市場の原則からは外れるが、のらりくらりとしながら友好的な関係を装ってきたTBSとしては、役所や世論を味方につけるためにも、三木谷氏のふるまいを明らかにして、「エリートの仮面」の裏を剥がしたのである。
実際、ソフトな外見と論理的な弁舌、旧興銀出身の海外留学組という経歴から、三木谷氏は「激することのないエリート経営者」と思われがちだが、実際は一橋大の体育会テニス部で主将を務めたという経歴が示すように体育会系の経営者である。
朝礼への遅刻は許さず、命令には絶対服従を求め、離反は許さない。それが、「仮想商店街日本一」を目指す間は、社員の一体感を生み、有効に作用したが、IT企業の「勝ち組」として先頭に踊り出ると、指針を失って、三木谷氏のワンマン経営ばかりが目立つようになった。
その最たるものがTBS株の買い占めであり、みずほコーポレート銀行の仲裁を受け、一度は矛を収めたものの、その期限切れとともに再始動、もはや誰の意見も聞かない。ただ突っ走るのみ。創業メンバーで三木谷氏を支えた旧興銀の同僚なども次々と楽天を去って、暴走を止める人がいない。
年長者でご意見番的な存在の國重敦史氏は諌めることの苦手な事なかれ主義者で、新たにCOO(最高執行責任者)として迎え入れたトヨタ出身の武田和徳氏は、入社半年でまだ歯向かえない。
そうした中、TBSにコケにされたという思いのある三木谷氏は、自分とカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の増田宗昭社長の2人を社外取締役に選任するよう求めるなど、行動を先鋭化している。
大株主としてのポジションを、最大限に生かそうとする三木谷氏の行動原理は十分に理解できる。また、敵対的を友好的に持っていくための戦略を練っているかも知れない。しかし、「放送」という半公共的施設と「野球」という国民的スポーツを握るTBSという組織に対し、「大株主だから好きにやらせてもらう」という態度は、必ずや「秩序の側」の反発を買う。それは堀江被告の例でさんざんに見せつけられた。
総務省はゴリ押しする楽天に不快感を隠さず、ライブドア事件と村上ファンド事件の狭間に三木谷疑惑を内偵していた東京地検特捜部は、再捜査の構えを見せている。さらにTBSは、楽天球団を持つ楽天が、横浜ベイスターズを傘下に置くTBS株を買うのは野球協約違反だと申し入れている。
それを受けて元検事の根来泰周コミッショナー代行は、「楽天には協約違反であることを何度も申し入れている」と、語った。
ケンカ腰の交渉は、こうした波紋を引き起こすわけで、ABCマートという靴のチェーン店を経営する三木正治氏が第二位の大株主となっていることと合わせ、「民放を三木谷の思い通りにはさせない」という包囲網が敷かれているのは事実なのである。
TBSや市場関係者が期待するのは、社外取締役候補の一人が、三木谷氏の経営者としての“師匠格”にあたるCCCの増田社長であること。「暴走機関車となった時の三木谷さんを止めるのは増田さんしかいない」(証券幹部)というのである。

